シリーズ ヤップでまかれた種たち

第3回:高梨晃さん

丹沢の森とヤップ
手もみ茶づくりが育む豊かな体験

 地球体験チャレンジ「ヤップ島プログラム」30周年を迎えるにあたってスタートした連載企画「ヤップでまかれた種たち」。ヤップを経験した仲間たちのストーリーから、ヤップの意味や価値、そして今後の社会づくりを考えます。

 第3回目のストーリーテラーは、神奈川県秦野にある高梨茶園にて、四代目を務める高梨晃さん(33)。ヤップ島プログラムを体験した多くの参加者が、事前キャンプを行う地「丹沢」で、先代から家業を受け継ぎ、茶園を営んでいます。

 今回のインタビューでは、丹沢の地域への想い、手もみ茶へのこだわり、茶業を継ぐことの覚悟、そして自らもヤップ島プログラムに参加したことが与えた影響について、語ってもらいました。

オンライン・インタビューの高梨晃さん

丹沢山麗に茶園を構えて

 「機械がない時代に、昔の農家の方は、お茶の葉を自分で摘んで、蒸籠で蒸して、炭火で乾かして、茶缶に入れて、自分用のお茶を1年間分つくっていたんですね。畦畔茶(けいはんちゃ)と言うんですが、土地と土地の境目にお茶の木を植えて、それを5月に摘んで。そういう昔のお話を語りながら、お客様に実際にお茶摘みや手もみをしていただく。そうした体験を大切にしていきたいんです・・・」

 神奈川県秦野の丹沢山麗に、約3ヘクタールの茶畑を構え、丹沢遠山茶をつくる高梨茶園。昭和28年、高梨さん曽祖父の代にそれまで行っていたタバコ栽培を手放し、雨の多い丹沢特有の気候を生かしたお茶の栽培に切り替えました。高梨さんは、22歳までに静岡と茨城での修行を終え、家業を継ぐべく秦野に帰ってきて、10年以上が経ちました。

 高梨茶園は栽培や生産に特化するのではなく、茶畑に苗木を植え、茶葉を収穫して乾燥させ、工場で茶葉まで加工し、お客様にお届けするという六次化まで自分たちで担うスタイルを大切にしています。「自分たちで販売するところまでやっている茶園は、全国でもそんなに多くはないのかなと思います。直接お客様にお茶を届けて、シンプルに喜んでいただけたときが、とってもうれしいですね」と、この仕事の醍醐味を語る高梨さん。

そんな高梨茶園ですが、エコプラスとは実は深いつながりがあります。ヤップ島プログラムでは、事前プログラムとして丹沢でキャンプを行うのですが、その丹沢の森の管理をしている森林組合の責任者がお祖父様でした。

 「うちのお祖父ちゃんに聴くと、高野さんがまだ20代くらいのときに『この森にキャンプを張りたいんですけど』と相談に来られたそうです。それ以来、エコプラスがこの森を拠点に活動をされていて。私がみなさんと初めてお会いしたのは16歳くらいの時で、最初は『何をしている団体なんだろう?』と不思議に思っていました。ただ、参加者のみなさんが、キャンプに入る前と終わった後に茶園にご挨拶に来てくれる際に、森から帰ってきたみなさんの表情が全く違って、目がとてもきらきらしているんですね。『昨日の夜こんな大変なことがあってね・・・』と語る姿が、疲れてはいるんですけど何となく自信がついているように見えて。1日でこんなに人が変わるって、『一体この団体は何をやっているのだろう?』と興味をもったのが最初の出会いでした」

 そこからエコプラスの活動に関心をもってくださった高梨さん。その後、高梨茶園に協力いただき、エコプラスが参加者を募り毎年のように実施した「手もみ茶づくり講習会」では、修行を終えて戻ってきた晃さんが、お父様の孝さんとともにお茶づくりの指導を行ってくれるようになりました。

 手もみ茶づくりの技術を競う全国大会で2位になった経験もある高梨さん。お茶づくりへの想いはどのように育まれてきたのでしょうか。