久しぶりの「こんにちは」
「道端で草を摘んで、そのまま食べたのが衝撃だった」
5月後半の週末、エコプラス「田んぼのイロハ・田植え編」では集落周辺の散策をしながら、途中で山菜を取った。東京で暮らすその女性は、採って直に食べたことを私に語り、「甘かった」と笑顔だった。
新潟県南魚沼市栃窪集落の営農組織、パノラマ農産は一部の田んぼで、15年以上前から無農薬で稲作を続けている。手間がかかるだけでなく重労働のため、従事する人たちが年齢を重ねていく中で弱音も聞こえてくる。しかし、エコプラスの活動を通して、ここで稲作のプロセスに関わることは、多くの人たちにとってたくさんの気づきに繋がった。
無農薬田んぼを舞台としたプログラムは2008年から始まった。学びの場としてではなく、学びの機会を通した地域づくりも目的だった。作業だけでなく、過去と今の稲作の違いや課題、農山村の今や地域の歴史、生態系理解など、講座とフィールドワークを通して知識や思考を広げ、深める機会もある。村の人たちや参加者同士の交流も宝物だ。宿の食事はとても美味しく健康的で、かつ地元の文化である日本酒も数種類。集落の小学校の子どもたちも一緒に活動したりしてきた。
けれど2020、2021年の2年間はコロナ禍のため、田んぼの作業のみ日帰りで自主参加だった。今年の5月、久しぶりの1泊2日のプログラムには、小学生から70歳代まで日帰り含めて25人が集まった。全員、直前検査にてウィルス陰性を確認してもらっていた。
最後に書いてもらったアンケートでは、「稲作の大変さ、奥深さ、食の大切さ」など、食についての記述は多かった。他にも「素足と土と水と一体になる心地よさ」や、「生き物を植えた実感」「自然の中に身を投じることができた」など、自然との関わりについてのコメントも多かった。しかし全体の中で目立つのは、人との触れ合いについてだ。
田んぼのあぜで、「マスクなしで、こうして他の人たちとお話しできるって大切ですね」と、感慨深そうに一人の女性が私に言った。医療関係者である彼女は、ここ2年以上、極めて厳格な感染予防対応を求められていただろう。アンケートには他にも、「オフラインで開催されるイベントに参加することが、ここ2年で初めてくらい」、「十名以上の“初めまして”となる機会すら久しぶり」などの声があった。
コロナで外出や遠出が減っていたために、「新潟に来ること、裸足で田んぼに入ることは、これまでやったことあることであるはずなのに、インパクトの大きな経験となり、久しぶりに五感が刺激されました・・・他の方との対話というものの価値を改めて感じられた2日間でした」と書いた人もいた。
印象に残ったこととして10代男性は、「初日の夜に懇親会で先輩方と将来のことについて話したこと」と書いた。40代男性は、将来のことなどを考える若者の視点はいい刺激だったとした。
他にも、「人間の生活は他人の労働によりささえられていることを強く認識した。人は一人では生きていけない」、「改めて普段いかに“生きる”ことや“暮らす”ことがおろそかになっているか」、「生きることの基礎的な部分に対して手間をかけることを惜しまないようにしよう」、「思い切って体験したりやってみたりすることの大切さ」など、企画した身としては、本当にこの機会を作って良かったと思うコメントがたくさんある。
コロナ禍の2年半近くを経て、私たちは様々なことを学んだ。人と人、人と自然が関わり合うことの大切さはその一つだ。日本でも国内外の移動が徐々に拡大し始めている。対話や内省の機会を噛みしめながら、ありがたく楽しみたいと思う。(6月2日)
